戦術スキルを再考してみる・その二

mongkang2008-03-16

 
R2:打草驚蛇
草を打って蛇を驚かす。威嚇と同時に相手の出方を窺う意味でも重要である。
大きく分けて、探りを入れて相手の動きを察知する計と、草を打つことで「いぶり出し」を行なう計という二つの意味がある。
反計スキルとして扱うのはどうかとも思うが…まあ反計看破もあるからいいのか。
 
小売会社A社が問屋B社に対して商品の仕入れ値交渉の取引をする事となった。
キロあたり100円で買いたいとA社が持ちかけてきたが、B社側は「話にならない」と、相手の出方を掴む為に敢えて予定価格のキロ120円を隠して、160円で卸したいと強気に出た。
 
A社はB社の思惑を見抜いた。そこで
「交渉の最終決定権を持っている責任者が急な所用で来られなくなった」
と不快感を現すと同時に逃げの手を打った。B社もこれを即座に看破し
「では、私共も次の取引先がありますので本日はこれまでに」
と対抗手段に出て交渉を打ち切った。
 
次回の交渉では最初からA社側が半ば折れる形で、キロ140円の仕入れ値でスムーズに交渉は終了した。
 
これは打草驚蛇の打ち合いでB社の圧勝。
基本、小売は問屋には敵わないけどね。
 
 
R5:調虎離山
 
虎を調(あしら)って山を離れしむ。
韓信といえば「背水の陣」。
 

しかし、本来自ら退路を断つのは愚計・奇策であり、死兵が強いのも一瞬に過ぎない。
ここで本当に重要なのは、背水の陣をしくことで趙軍に殲滅の好機と思わせ、趙軍にとって有利な砦から引き離して野戦に持ち込んだ点である。まさに、韓信の調虎離山の計の勝利であった。

Wikipediaより。
 
アトラスは、観光地で風景を取り込んだスナップ写真を撮影できる自動撮影機をヒントに『プリント倶楽部』を開発し、これが若い女性層を中心に大ブームとなった。
しかしブームは2年で収束し、街中至る所に設置されたプリクラ機もその数を急激に減らしていった。
 
ブーム終焉を迎えアトラスがプリクラ機の在庫を抱えて退却姿勢なのをみてとるや、日立ソフトは『劇的美写』を発表。高画質・全身撮影を売りにして第二次ブームを作り上げた。
 
これは調虎というよりは勝手に虎が山を離れた向きもあるが、先駆者であったアトラスが高画質・広範囲撮影に気づかなかったとは考え難い。いずれにせよ縄張りから離れた虎の運命は推して知るべしである。
 
 
R2:釜底抽薪
釜の底より薪を抽(ぬ)く。抽かれた釜は冷えるのみ。
 
官渡の戦いでの烏巣兵糧庫焼き討ちが代表格か。
根本はしっかり抑えておくべし。という教訓ですな。
 
1887年、イギリス議会は国内で販売されるドイツ製品に「ドイツ製」と明記する決議を採択した。
当時進出著しいドイツ産業を抑えイギリス国内製品の需要拡大の為の政策であったが、これは完全に裏目に出た。
「ドイツ製」と明記されてからのドイツ製品はそれまで以上に需要拡大、世界的に評価が上がっていったのである。
 
薪を抽いたつもりがガソリンが足されていたという…。
 
 
R5:反客為主
客を反して主と為す。早い話が乗っ取り。
董卓とか司馬懿とか、もうちょい前だと高祖劉邦とか。乱世にはありがち。
 

中国のある町を走る路線バスは、車掌たちが切符の釣り銭を間違える事で有名だ。
ある乗客は反客為主を使ってこの問題に対処している。彼は車掌からお釣りの九元を受け取ってから十元紙幣を渡す事にしている。

*1
 
なんつーか、民度の低い国ではバスひとつ乗るのにも大変ですな。
 
 
R3:金蝉脱穀
金の蝉が穀を脱ぐ。脱いだ殻が金色に輝き敵の目を引いているうちに逃げるという訳。
「死せる孔明、生ける仲達を走らす」が好例か。これは反計でこそ生きるスキル。
 
太平洋戦争の後半、日本軍はアリューシャン列島を次々とアメリカ軍に奪回され敗戦を続けていた。特にアッツ島では二千五百余人が一万人強のアメリカ軍を迎撃し玉砕した。
アッツの隣島キスカは次の攻撃対象であった。
日本軍は濃霧とアメリカ軍艦の給油のタイミングを見計らい、キスカ島守備隊全員を撤退させることに成功した。
その後アメリカ軍は、三万五千の大軍を動員して上陸を敢行。
アッツ島での激しい戦闘で日本軍に対して恐怖を抱いていたアメリカ軍は慎重に上陸したが、既に島はもぬけの殻であった。
 
昨今急激に増えた偽装関係の報道がされる度に、裏で蝉が逃げる算段をしているのでは…と考えてしまうのは私だけ?
 
 
活用出来そうなスキルもあれば、もう見るからに役に立たなそうなスキルもありますが、謀(はかりごと)は失敗すれば自分に返ってくるので、その点だけはくれぐれもご注意を。
 
 

*1:抜粋。参考文献:兵法三十六計〜かけひきの極意〜 ハロー・フォン・センゲル著 ダイヤモンド社