祝・東野圭吾氏 直木賞受賞(仮)

mongkang2006-01-26

 
仮にも書店員の端くれとして年二回のイベント*1・第134回 芥川賞直木賞受賞作発表について一言も無いのは如何なものかと思い、苦節6回目の候補作で初の直木賞を受賞した東野圭吾氏「容疑者Xの献身」について書こうと思ったのです。
 
渡辺淳一氏&二階堂黎人氏によるいつもの強烈な東野バッシング*2にも耐えてよく頑張った!」
 
と書こうと思って読んでみたところ「本格ミステリ云々*3以前に私の好みではないな」と思いはじめ、書きたい事は即ネタバレに繋がってしまう事もあって急遽変更。
一言だけ。『白夜行』の方がずっと良かったよ圭吾タン…。
受賞するならやっぱりこっちが妥当だったね。
 
 
「夫と妻であり続けるための心理学」
マイケル・F. マイヤース 著・高木 洲一郎 訳  講談社
 
『「男と女」なぜ、すれ違う!?ふたりがいっしょに生きていくために大切なこと。
人間関係における精神的な苦しみや淋しさ、恐怖心や抑制心、それに立ち向かう勇気。
結婚生活に対する希望や再出発。そして、現代人の葛藤や不幸についてどう考え、どうしたらよいか。
臨床経験25年の精神科医の実際的アドバイス。』
 
 
…で、変更した結果がコレかよ!という類のコメントは華麗にスルーさせて戴きます。
最近立て続けに離婚について相談されたもので、自分の考えを整理する意味合いも含みつつ。まぁ彼等/彼女等がこのチラシ裏を読んでいるかどうかは何とも言えませんが。
 
それでもあなたがたに送るメッセージを先にひとつ。
「結婚する、という事は、ひとつ大きな罪を犯す、ということです。
愛しても愛しても、充分に愛した などと言える人など無いのです。
愛し足りる ということなど決して無い。
結婚とは、その罪を一生負うていくことなのです」
 
 
「夫と妻で〜」の総評としては、
「小僧共、離婚したくなければ酒に逃げるな、セックスしろ」
とまぁ北方謙三先生の人生相談*4ばりの結論を長々と柔らかい文体で書いてあるだけ…では書評としてあまりにもお粗末極まりないので所感を少々。
 
欧米ではかなり普及している「夫婦療法」についての記述が多くみられるが、これについて日本ではまだまだどころか全く知名度は低く、少しでも多くの人に知って欲しいという姿勢をここに特筆して評価したい。
 
「夫婦療法」とは「結婚によって結ばれている二者関係の心理療法」で、夫婦関係に関係する様々な葛藤解決に向けて行うカウンセリングのことをいう。
また、親密な関係で生活している未婚の二人を対象にした場合は、カップル療法と言い換える事もある。(Sager.C.J.)
 
 
日本では、離婚の危機に際してまず相談するのは「家庭裁判所」であり、「調停」という形で結論が出されます。
しかし家裁では心理的に洞察・言及する事は少なく、過去の判例や習慣に従った答えが出されるケースが殆どです。まぁ裁判所なのですから当然ですが。
 
離婚の原因として最も重大なのは、倦怠感、浮気やDV・性的関係の歪み等により生じた千差万別の心理的障害であるのに、その点が抜け落ちた結果 お互い納得いかない方向に進んでしまうケースは非常に多いのです。
 
無形の物に代金を支払うという意識に乏しい日本では、カウンセリングの一種である夫婦療法に対しても勿論健康保険の対象外であり、この事もまた普及に対する大きな壁となっています。
 
夫婦ふたりの最終目標は異なっても、第三者を交えて話し合うことに意味があるのですが、恥ずかしさや世間体が先にたったりするなどして、まだまだその認識すらもが浅いのが現実です。
ああ、まず藤臣柊子 著「精神科に行こう!*5」の方から紹介すべきだったか…。
 
 
そしてセックスについての記述が本書においてかなり重要な部分を占めているので…本当はこの部分にこそ重きをおいていたのですが諸事情により割愛とし*6…画竜点睛を欠くどころか麺抜きのラーメンになってしまいましたが、アメリカのある女性のコメントで締めくくらせて戴きます。
 
「セックスは素晴しい『逃避』です。夫と私は5年間、それを使っていました。
自分達のコミュニケーションが悪化すればするほどセックスに頼る機会が増え、ついには私達の結婚生活がずっとごまかしだった事に気付いたのです。
私達は離婚します。」
 

*1:毎回毎回お客様に「受賞作はありませんか?」と聞かれ「出版社でも既に品切れです」と答えるイベント

*2:諸事情により割愛

*3:二階堂黎人氏による発言「容疑者Xの献身は本格ミステリではない」http://homepage1.nifty.com/NIKAIDOU/NISSI/NISSHI.htm

*4:雑誌・ホットドッグプレスにて連載されていた『試みの地平線』。女性に対し自信が持てないと悩む青年に「ソープへ行け!」とワイルドな答えが秀逸

*5:漫画家と編集者が共に自分自身の精神科受診体験を綴ったエッセイ。文春文庫PLUS刊

*6:なにやら猛烈な勢いで倫理的なチェックに引っ掛かるらしい