短期非集中連載『毒』3−ベニテングタケ

 
北海道の知り合いから一通のメールが来た。
 
ベニテングタケうめええぇぇぇ』
 
これだけかよ。
 
北海道に居た頃はノーマークだったんだよなあ。
まだマジックマッシュルームなんてものすら知名度低く、ベニテングタケもよくある毒キノコの一つ。
食うと巨大化出来るかもしれん*1、くらいの認識度であった。

おそらくキノコ研究者はその美味さを知っていて当時から食べていたに違いない。
今は郊外とはいえ腐っても東京。ベニテングタケの生える白樺林など影も形も見当たらない。
くやしいのうwwwwくやしいのうwwww
 
ググれば判るのだが、ベニテングタケは非常に美味なキノコである。
味・食感・香り 全てにおいて優れており、塩焼きにして食べるのが絶品とか。
長野県の真田町辺りでは塩漬けにして常食にしているらしい。
中島らも が著書「アマニタ・パンセリナ」で語っているそうなので今度読んでみる。
 

ヤツはその毒々しい、もう見るからに妖しい姿の裏にイボテン酸というアミノ酸の一種を隠し持っている。
イボテン酸の分子構造はグルタミン酸と似ているらしい。グルタミン酸といえば要するに「味の素」だ。
そしてイボテン酸の旨味成分はグルタミン酸の10倍以上に達する。
なんかもう、聞くからに美味そうなふいんきが漂ってくるではないか。
 
同時にイボテン酸は毒でもある。
 
グルタミン酸の3〜7倍の興奮作用を持ち
・アルコールに溶けやすく酔いを深める
・ハエにとっては猛毒でハエ取り用の殺虫薬剤として用いられた
 
ほー。味の素は興奮作用があるのか。簡易ドーピングに使えるのかな。
あと、ロシアでは低品質のウオツカの酔いを深める為にベニテングタケを食べていたらしい。
安酒でより良質の酔いを求めようとするロシア人の姿勢は高く評価したい。
 
ハエ取りキノコ溶液には、トリコロミン酸を含むハエトリシメジが使われてた事は知っていたが、
イボテン酸もハエ取りに使えるとは知らなかった。*2
どちらも人間にとっては旨味、ハエにとっては猛毒。おそらく分子構造が似ているのだろう。
 
 
そして、ベニテングタケのもう一つの特徴が幻覚症状。
これはイボテン酸の分解産物であるムシモールという物質が起こしているらしい。
ムシモールは神経伝達物質の放出頻度を落として脳の活動を鈍らせ、鎮静作用を発揮する。
汗・よだれ・涙が出て血圧・視力の低下をもたらすとの事。
垂れ流し莫迦っぽい。あまりグッドなトリップにはならなさそう。
合法ドラッグについて語るつもりはないのでこれくらいに。
 
また、ムスカリン・アマトキシン等の毒を含み、下痢や嘔吐に加えて永く食べ続けると肝臓障害を起こす。
「美味いものには毒がある」とはよく言ったもので。
 
 
ベニテングタケの傘の表面に散らばる白いつぶつぶは取れ易く、雨が降ったりするとすぐに取れてしまう。
するとあら不思議。食用のタマゴタケそっくりの外観に。

間違って大量に食べると…まだ死亡例は無い様ですが。剣呑剣呑。
 

*1:スーパーマリオ

*2:ベニテングタケは英語でFly Agaric。なんだ直訳でハエキノコじゃん