戦術スキルを再考してみる・その一

mongkang2008-03-05

 
携帯ゲーム三国志を始めてはや7年。
軍師・参謀職に就く事が多いので、戦術スキルは欠かせない。
今シナも二流軍師に弱小陣営という、おきまりのポジションである。
いつになく充実している戦術スキルをぼーっと眺めて、そういえば三国志関係のエントリを殆ど挙げていない事にはたと気が付いたのである。
 
携帯三国志の戦術・謀略スキルの多くは『兵法三十六計』を元にしている。
現在の中国では、実は孫子の兵法よりも兵法三十六計の方がメジャーらしい。
そしてよく勘違いされるが、「三十六計逃げるに如かず」は晋代の檀道済という人が考えたもので、兵法三十六計とは全く関係ない。
 
この兵法三十六計というヤツは実に興味深い。
「擒賊擒王」*1等は経営学でもしばしば見ることができるし、「遠交近攻」は現代に至るまで外交戦略の基本である。
 
これをもう一度見直して、戦術の本来の意味を考えると同時に現在の使われ方を再考してみたい。
 
 
R2:借刀殺人
直訳すれば「他人の刀を借りて人を殺す」となる。
転じて、自分に注意が向かない様にして間接的に敵に打撃を与える、という意味を含むらしい。
 
私が昔勤めていたある会社では、取引の際に一言一句漏らさぬ様に交渉相手の発言をメモさせていた。
この事により相手にプレッシャーを与えると同時に、矛盾や誤りを見つけるとそこを突いて交渉を有利に進めるのだ。
相手の発言それ自体を武器にして我が事を有利に運ぶ。これぞ借刀殺人といえよう。
 
まあ揚げ足取り以外の何物でもないが。こんな会社相手に取引は御免こうむりたいのが本音であろう。
諸葛亮孔明赤壁開戦を図って呉の非戦派論客を論破したのも高度な借刀殺人か。
まあ、あの火付け盗賊孔明*2は揚げ足取り得意だから。
 
 
R4:無中生有
「無の中に於いて生を有する」
無といってもゼロではなく、殆ど中身を従わないもの、と言えば解り易い。
 
5年程前に突然名前を聞く様になった「恵方巻」。
起源には、秀吉の家臣・堀尾吉晴が戦いの前日に巻き寿司の様な物を食べて出陣し、敵将を討ち取るという功績を挙げたという故事を元にしているという説等、諸説あるがはっきりしない。
 
セブンイレブンはこれらの説を元に恵方巻を売り出し、これが大当たり。
昨年はローソン・ファミリーマートを加えたコンビニ大手3社だけで約700万本の恵方巻きを販売している。
 
でっち上げと言ってしまえばそれまでだが、これだけの利益をあげるに至っては決して馬鹿に出来ない。
同じく赤壁での孔明の「百万本の矢を得る」は無中生有の一例であろう。確かにR4クラスの難易度ではある。ええい忌々しい。*3
 
 
R1:樹上開花
これは読んで字の如く、である。樹の上に花を開(咲)かす。
枯れ木に花を咲かせましょう、である。勿論見破られ易さはR1クラス。
粉飾決算が樹上開花の端的な例。過剰な広告宣伝も同様。
 
具体例は思いつかないが、劣勢時に寡兵を大兵力に見せかけて相手を威圧し戦意を喪失させる計略等は紛れもない樹上開花であろう。
 
 
R5:空城の計
これまた、かの火付け盗賊が司馬懿相手に使った、西城で琴を奏でるアレが有名ですな。
これも趙雲が以前に同じ様な計略を使ったのを参考にしているという説が有力だが。
 

…中国のある村に芝居の一座がやって来た。村に住む老農夫の一族はみんな見に行きたがった。
誰しも昼は畑仕事があるから芝居は夜に演じられる。そうなれば夜の留守番がいる。
仕方なく老夫は留守番をかって出た。皆は喜んで芝居見物に出かけてしまった。
 
主の老父はみんなが出かけたあと一人でいたが、いてもたってもいられない。
そこでふと空城の計を思い出した。
表門を開け、南と北の部屋の竈に水を張った鍋をかけ火を起こした。しばらくすると鍋の水が沸いて熱湯になり、もうもうと湯気が外にひろがる。老父は更に竈に薪を足してそのまま芝居見物に出かけた。
やがて芝居が終わり老父は家へ帰るが泥棒が入った気配はない。老父は「空城の計」がうまくいったとにんまりした。
 
実を言うとこの時が一番泥棒には都合がよく、この日も空き巣が二人この老農夫の家を狙ったのだが、表門は開けっ放し、庭に忍び込むと湯気が充満しており部屋の中の灯かりもぼんやりしてよく見えない、戸からも熱気が出て竈に火もついている模様。
これはてっきり中に人がいると思い、入れなかったのだ。*4

 
まあ、実際にはこの老夫は同じ計を二度使って失敗している訳だが。
どうやら孔明の言った「空城の計は一度限り」を忘れていた様で。
 
 
R3:苦肉の計
今更ですが赤壁周瑜様と黄蓋が図ったアレがとてつもなく有名。
なんだか赤壁づいてるなあ。よいぞよいぞ*5
 

日本のある保険会社は、夫に先立たれた女性を大量に雇用し、保険外交員に育てた。
この人事対策は会社に大きな利益をもたらした。
未亡人勧誘員の説得を受けて多くの既婚女性が夫を生命保険に加入させたのである。
勧誘員は説得の際にこう語った。
「もし夫が生命保険に入っていてくれたら、今頃になってこんな仕事をせずに済んだ筈です」と。

 
これは卑怯なまでの苦肉っぷり。お見事。
「出血大サービス」なんてのも苦肉の計でしょう。店が儲ける為の謳い文句だから。
昨今の競争過多の状況では原価割れ価格での販売で、本当に出血してる場合も多々有るのだがね。
 
 
その二へ続く。
 

*1:賊を捕らえるにはまず王から。コアビジネスの原点

*2:火攻め大好き・領地借りても返さない。呉ファンにとっては忌むべき敵

*3:周瑜ファン故に

*4:李占春故事選より

*5:コーエーでの司馬徽先生の台詞より