ケータイ小説を売り売り憂う

mongkang2007-04-02

 
最近、絵ばかりが続いたので今度は字について少々。
先日、店の「今週の売れ行きBEST10」のコーナーを商品入れ替えしていてとんでもない事に気が付いた。
1位から5位までがケータイ小説なのだ。
 
これがどれだけの屈辱であるかお判りだろうか。
例えるならば、スーパーでチラシを打って特売日を設けたら特売品だけが売れて他の商品が一切売れなくなった…
…ちょっと違うなあ。
日本画家が気紛れに似顔絵を描いたらそれが妙に受けて、以後似顔絵の依頼しか来なくなった…
おおよそこんな感じだと思って戴きたい。
 
 
読者ターゲットは女子中高生が主である筈ですが、結構な割合で成人女子も買っていかれます。
ネット世間で聞くケータイ小説の風評といえば批判が殆どで
「こんなもんは日本文学ではない。小説どころか文章ですらない。本当の感動とは程遠い」
ラノベ以下の三流読み物だ、こんなんで泣くか普通? という意見が趨勢を占めております。
火付け役となった「Deep Love」そして「恋空」。途中から鼻糞ほじりながらも頑張って一応全部読みましたよ私も。
しかし、それらの意見に対する批判・違和感は全く出てきませんでした。
 
その内容はといえば援助交際だとか友人の裏切りだとか児童虐待経験だとかレイプだとか不治の病だとか愛人契約だとか。
彼氏が事故で死にましたとか愛した人がホストでしたとか恋人がサンタクロースでしたとか。
で、〆にはお決まりの「これは実話に基づいた小説です」
やべ、中身全部書いちゃった。これ読んだ人はもうケータイ小説読む必要ありませんね(笑)
 
そして何故ケータイ小説が女子中高生に大人気なのかというと
「『文章はへたくそだけれど自分たちと同じ体験をしている』という、読者のニーズを分かってる」
からだというのです。
 
はぁ…この内容に共感ねえ…イマドキの女子中高生はとんだDQNメンヘラ揃いなのですな。
共感とは真逆のところに位置するものだと思うのですがね、そもそも小説を読んで感動する要因ってのは。
集団心理や発達心理辺りを絡めて考えると女子中高生の自我の脆弱さが浮き彫りに出来そうです。
 
文章の下手糞さについては、2chでもよくコピペされているコレが端的に表してますね。
 

「ギャ!グッワ!待ってくれ!待ってくれ!」
 オヤジは、叫んだ。
 「許してくれよ!入れたかっただけなんだから」
 「バキッ!ボコッ!」
 ケンはかまわず殴り続ける。
 「ヒッー!助けてー!助けてー!」
 オヤジが悲鳴に近い叫び声をあげた。
 (中略)
 思わずミクが言った。
 「店長!それ以上やったら死んじゃう!」
 「ガッシ!ボカ!」
 ケンには、まったく聞こえていない。オヤジも失神したのか動かなくなった。
 「キャー、やめて!」
 ミクが叫んだ。
 「あっ……はい」
 従業員が後ろからケンを押さえた。

 
Deep Love」より。
つぅかもう文章にすらなっていない様な気もしますが。
まあ、下手糞だからといって意義までもが無いと考えるのは些か先走り。どんな本だろうと読者が受けた感動に貴賎は無い筈。
これだけは事実なので。あくまでこれは私の個人的な感想です。
 
 
罪についてはキリが無いので功についても述べてみましょうか。気が進まないけど叩きっぱなしもイクナイ。
小説をあまり読んだ事の無い女子中高生が、まがりなりにもこれを切っ掛けに読書習慣を付けてくれる可能性は飛躍的に高まったと言えましょう。
 
現在のティーンズは活字重病人です。
孔明:これを治すに、あなたはいきなりステーキを与えるか?
   新宿歌舞伎町駅ウラ・ステーキホリタンのガーリックつきでこんな厚いやつを食わせるというの?ん?
張昭:ま…まずは粥からや
孔明:そう、粥を与え薬を飲ませ、内臓が治ってからステーキホリタンです*1
 
いきなり芥川賞受賞作*2では胃もたれどころか即死する。薄粥としてのケータイ小説の意義はこの一点にあると言っても過言ではないでしょう。
確かに内容構成や文章力はどうかとも思う。しかし書店という立場から見れば客層開拓と売上げ増に貢献しているのもまた事実。
そして出版社の思惑に乗ってしまわざるを得ない自らにまた屈辱を覚えるのです。
 

「実は、ケータイ小説の読者(主に14歳〜20歳の女性)には『本を1冊読み通した』という経験がない人もおられて、ウェブにしろ書籍化されたものにしろ、ケータイ小説を読んでみたら『全部読めちゃった』ということで、ケータイ小説を好きになる、というケースが多いようです。
さらに『自分たちと同じキモチ、空気感を共有できる』ということで、『私たちが読むものだ』という意識を持ってもらっているのではないでしょうか」

 
本を一冊読み通した事がない…こんな方々でもステーキホリタンまで辿り着く事が可能かどうかについてはなんとも言えません。
 
 
しかし、いつから日本人の活字文化度にこんなにも格差が出来てしまったのでしょうね。
年齢・性別による意思疎通の困難さというものはここらへんにも現れている様に思えてなりません。
 

*1:SWEET三国志4巻より

*2:第130回受賞作を除く